福岡大学 人文学部 福岡大学 人文学部

東アジア地域言語学科

学科トピックス

2023.04.10

【報告】第8回 福大韓国学シリーズ(国際シンポジウム)

2023年2月16日(木)に第8回福大韓国学シリーズ(国際シンポジウム)が開催された。福大韓国学シリーズは、韓国学関連で日本、韓国そしてほかの地域の研究者が集まって話し合う集まりである。特に九州・福岡で集まるということを考えてこれまで開催してきた。今回は、日本における韓国・朝鮮文学研究の歩みに関する座談会、日本国内の若手研究者と韓国の成均館大学・高麗大学の若手研究者との研究発表会という二つの企画で行われた。

日本における韓国・朝鮮文学研究の歩みに関する座談会では、波田野節子氏(新潟県立大学・名誉教授、タイトル:「私の来た道とこれからの抱負」)と白川豊氏(九州産業大学・名誉教授、タイトル:「私と韓国・朝鮮の語文学」)の自分の人生における韓国・朝鮮文学に関する話だった。韓国・朝鮮研究に関心を寄せたのは、波田野節子氏と白川豊氏ともに個人史的な理由があり、親世代が朝鮮半島との関係があった。また両氏ともに大学のような正規課程ではなく、教育制度の外の社会で朝鮮文学や文化を学んでおり、1960~70年代における朝鮮文学や文化の現状を理解することができた。現在韓国語の教育が全国の大学で多数行われていることに対し、朝鮮半島の歴史・文化・社会・文学などの専門教育を行う大学が少ない現状ともつながる話である。
戦後日本における朝鮮文学研究の1.5世代とも言える両氏の話に対して、次の研究世代の渡辺直紀氏(武蔵大学)、韓国で韓国文学を研究する黄鎬徳氏(ファン・ホドク、成均館大学)、文学から異なる歴史学の観点を持つ李泰勳氏(リ・テフン、九州産業大学)からそれぞれの立場から語り手の両氏の話に応答した。

若手研究者の研究発表会では、2部構成で6人の研究者が発表を行った。

1部の最初の発表である田中美彩都氏(学習院大学)の「近代朝鮮の慣習調査資料をめぐる研究状況と課題」は、以前の福大韓国学シリーズで行った慣習調査資料における異性養子の問題に関する発表内容を、植民地朝鮮で行われた別の慣習調査(警察によって平安南道を中心に行われた慣習調査など)と比較し、朝鮮史や植民地研究において意味と今後の研究の発展の可能性についての報告だった。
1部の2番目の発表である田中美佳氏(九州大学)は、これまで崔南善の出版活動に注目してきた研究対象の周辺に焦点をあてていた。今回の「1920年代の朝鮮における民間読本:『中等朝鮮語作文』を中心に」は、その関心を出版と教育の問題に広げ、民間読本『中等朝鮮語作文』(1928年刊行)に注目し、朝鮮総督府の『新編高等朝鮮語及漢文読本』(1924年刊行)と、日本の作文教科書との関係性を探った発表だった。
1部の最後の発表である潘在泳氏(バン・ジェヨン、韓国・高麗大学)の「単政樹立以降の転向研究」の遺産を如何に生かすか:ポスト転向時代としての戦後という視座の可能性」では、朝鮮戦争(1950~53年)後に発表された韓国の小説のなかで、転向者の姿が描かれるようになったのかに注目した。新生大韓民国における思想的な混乱な状況のなかで、朝鮮戦争後におけるマルクス主義、ヒューマニズム、実存主義の登場と文学という空間を再考する報告だった。

続けて2部では、韓国・成均館大学の若手研究者たちによるパネルだった。
2部の最初の発表である金宗喜(キム・ジョンヒ、韓国・成均館大学博士課程)の「新語に見られる意味の強調戦略」では、否定的意味の肯定的転用(例:개좋다[犬+いい(とてもすばらしい), 마약김밥[麻薬+キムパプ[病みつきのキムパプ]など)、新しく驚くべき現象を暴力的な言葉で呼ぶこと(例:팩트 폭력[ファクト暴力]、걸크러시[ガールクラッシュ]など)、専門用語の日常的転換(例:保育難民、冷麺性愛者など)のような現代韓国社会に登場した新語を通じて、ダイナミックに変化する韓国社会の言語風景を示してくれた。
2部2番目の発表である金聖来(キム・ソンレ、韓国・成均館大学博士課程)の「映画<福岡>と<柳川>の空間·言語·身体」は、中国朝鮮族出身の映画監督の張律(ZhangLu)の映画「福岡」(2020年)と「柳川」(2021年)におけるそれぞれの映画の場所性や人物の表象や登場する歌と詩を交差させて両映画の文学的意味を探った発表だった。
2部の最後の発表である林泰勳(イム・テフン、韓国・成均館大学)の「地政学としてのSF:極東アジアの未来を想像する小説の系譜」では、SF作品と帝国主義との関係性を問題意識とし、崔仁勳の「総督の声」(1967-1976年)と李文烈の「将軍と博士」(1989年)という現代韓国社会と歴史に関連するファンタジーを、冷戦下の朝鮮半島の地政学というから解釈できる可能性を探った。

今回の国際シンポジウムは、何年間コロナパンデミックで中断された国際交流を活性化させるための企画でもあり、これまでの福大韓国学シリーズをまとめて一度振り返ってみる機会でもあった。今後も九州という地域性を意識しながら、日本国内や韓国などの研究者の研究ネットワークをより広げていきたい。
【文責:柳忠熙】

国際シンポジウムの様子