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歴史学科

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2023.12.26

山根直生編『五代十国 乱世のむこうの「治」』

『アジア遊学291 五代十国―乱世のむこうの「治」―』が発刊されました。東洋史専修教員の私、山根直生が主編と、後梁に関する論文一本の執筆、コラム一本の翻訳を務めております。学生諸氏と歴史ファンの方々はぜひお買い求めあれ。
907年から960年までとされるこの五代十国の時代は、従来重要視されてきませんでした。長期王朝の唐と宋の間で、五十年くらいしか続かなかった分裂割拠の乱世なんだから、史料も乏しいし分かることも大してなかろう、と。

しかしむしろそうした「例外的」とされる時代にこそ、中国史の新たな考察の鍵があるのではないか? そう思って私はこれまでもこの時代史を研究し、このたび雑誌特集号の編者も務めることになりました。自ら書いた後梁太祖朱全忠に関する論文でも、この人物について従来語られる「狡猾」・「荒淫」といった特性はこの後の後唐・後晋朝による意図的な歪曲で、実はその集団には配下の妻女が夫とともに単独の臣下として参加していたのではないか、という仮説を語っています。朱全忠の早世した正妻こそがそのように機敏で自律的な女性の原型であったのに、宋代、「妻」「母」の行動が道徳上制限されるようになると、過去の彼らへの言説はいっそう批判的なものになり、それがまた後の中国女性を縛りつける一事例にされていってしまったのだ、と。

おそらく皆さんが知るものとは様々に異なる中国史の一コマがそろっています。なにとぞご堪能のほどを。

『アジア遊学291 五代十国―乱世のむこうの「治」―』
勉誠社、2023年12月、3,520円。IBNは978-4-585-32537-6
以下、目次
 
1 五代
後梁―「賢女」の諜報網 山根直生
燕・趙両政権と仏教・道教 新見まどか
後唐・後晋―沙陀突厥系王朝のはじまり 森部豊
契丹国(遼)―華北王朝か、東ユーラシア帝国か 森部豊
後漢と北漢―冊封される皇帝へ 毛利英介
急造された「都城」開封―後周の太祖郭威・世宗柴栄とその時代 久保田和男
宋太祖朝―「六代目」王朝の君主 藤本猛
〔コラム〕宋太祖千里送京娘―真実と虚構が交錯した英雄の旅路 謝金魚(翻訳:山根直生)

2 十国
「正統王朝」としての南唐 久保田和男
留学僧と仏教事業から見た末期呉越 榎本渉
〔コラム〕『体源抄』にみえる博多「唐坊」説話 山内晋次
〔コラム〕五代の出版 高津孝
王閩政権およびその統治下の閩西北地方豪族 呉修安(翻訳:山口智哉)
楚の「経済発展」再考 樋口能成
正統の追及―前後蜀の建国への道 許凱翔(翻訳:前田佳那)
南漢―「宦官王国」の実像 猪原達生

〔コラム〕万事休す―荊南節度使高氏の苦悩 山崎覚士
「十国」としての北部ベトナム 遠藤総史
定難軍節度使から西夏へ―唐宋変革期のタングート 伊藤一馬
〔コラム〕五代武人の「文」 柳立言(翻訳:高津孝)